松山地方裁判所 昭和27年(行)10号 判決
原告 青野政子
被告 周布村農業委員会
一、主 文
本件訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は被告が昭和二十七年九月一日樹立した周布村大字周布字天神千拾八番地田弐反弐畝拾五歩、同所千弐拾壱番地田壱反壱畝弐拾九歩の農地を青野頼恵に売渡す計画は之を取消す訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、其の請求の原因として(一)本件農地は原告の祖父青野精太郎が不在地主である吉本イサ、越智時美の両名から賃借耕作していたものであるが昭和十四年三月祖父精太郎の死亡により原告の父が家督相続に因り本件農地の耕作権を相続したものである。然るところ当時原告の父は其の勤務の関係で四坂島に居住していた為其の弟である訴外青野頼恵を分家して一部の農地を分譲して耕作せしめ本件農地の耕作管理を依頼していたのであるが、昭和十七年四月十八日原告の父喜十郎が応召した為め原告は母親ユキ等と四坂島を引揚げ肩書居住地に帰村し、本家を訴外青野頼恵が使用していたため納屋を修繕して之に居住し頼恵と共に農耕に従事して居たのであるが、昭和十九年十月父喜十郎は戦死し原告は本件農地の耕作権其の他の財産を相続したのである。(二)然るに父喜十郎戦死の公報があつてから訴外青野頼恵(原告の叔父)は原告等に対し冷淡になり父の財産の分割問題につき紛争を生じて居たのであるが昭和二十一年一月温泉郡川上村訴外鈴木スマ(原告の叔母)方に不幸があつた際親族会を開催し、原告の相続した約壱町歩の農耕地の中約七反歩を訴外頼恵が耕作し、本件農地は原告が耕作することに円満解決し、同二十一年の稲作より本件農地は原告が単独で耕作することになり今日に及んでいる。(三)然るに昭和二十一年農地法の改正に依り不在地主の農地を政府が買収して耕作者に売渡すこととなり本件農地も同二十二年十二月二日、同二十三年三月二日に夫々政府に買収せられることになつたので、原告は直ちに之が売渡の申入をしたところ、訴外頼恵も之が売渡の申入を為し、前周布村農地委員会は同二十一年十一月二十三日現在の耕作者が訴外頼恵であると断定し、少くとも買収当時の耕作者原告であるに拘らず之を頼恵に売渡す計画を樹立したので原告は買収当時の耕作者たる原告に売渡せらるべきものであると考へ所定の手続を経て同二十四年十一月五日愛媛県農地委員会に対し訴願をしたのであるが、同委員会は同二十五年十月三十一日訴願の理由あるものとして周布村農地委員会の樹立した前記売渡計画を取消したのである。故に被告は速かに原告に対し本件農地の売渡手続を採るべきであるのに、之を為さないのみか、一部の者の策謀に動かされ、爾来一年有半を経過した同二十七年三月十八日偶々前記訴外頼恵に対する裁決理由の中に買収当時の耕作者にあらざる同訴外人に売渡すには予め県農地委員会の承認を受けなければならぬに拘らず承認を経て居ないことは違法であるという点があつたことから、新に愛媛県農業委員会に対し訴外頼恵に売渡する計画樹立の承認を求め同二十七年九月一日再び本件農地を訴外頼恵に売渡する計画を樹立したものである。依つて原告は同年九月十日被告に対し異議の申立をしたところ被告は同月十八日附を以て之を却下する旨の決定書を同月二十日受領したので原告は同月二十七日愛媛県農業委員会に対し訴願を提起し現在繋属中である(四)本件農地は前述の如く其の買収当時原告が正当なる耕作者であり、且つ原告は戦没軍人の遺家族で本件農地が其の生活を支へる唯一の資であり、之に生魂を打ち込んで耕作に従事しているもので、之が他に売渡せられる様なことがあれば忽ち糊口に窮する次第であるが、訴外頼恵は現に六反八畝七歩を耕作(内六反一畝七歩を所有)しているものであり自作農創設特別措置法第十六条第一項同法施行令第十七条第一項第一号の精神から考へても当然原告に売渡せらるべきもので、之を訴外頼恵に売渡すことは不当である。而してその点については昭和二十五年十月三十一日農委第五三七号愛媛県農地委員会の原告訴願に対する裁決に於いても既に審議判断せられているのであり、其の後に於いても何等之に異る裁決を為すべき理由は存せず、且右裁決に対しては訴外頼恵からは行政訴訟も提起せず、右裁決は不動のものとなつて居るのであり、裁判に於ける一事不再理の原則は本件の場合にも適用せらるべきものと思料する従つて被告の為した異議却下処分は違法であり取消さるべきものである。尚農業委員の改選毎に前決定が変更せられる様では却つて民心に不安を与へ農地改革の精神が損はれる虞があり、本件の如き場合特に其の弊の甚しきを痛感するものである。仍て本訴請求に及ぶと陳述し(五)被告の答弁に対し原告が訴願に対する裁決を待たずして訴を提起した理由は先の訴願裁決書の理由中に青野頼恵を売渡の相手方にするには予め県農業委員会の承認を受けなければならない旨の記載があり原告は本件売渡計画樹立にあつては右承認を得て該計画を樹立し再び頼恵を売渡人に指定しているので該決定に対し訴願を提起しても県農業委員会は先の指示が実行されている以上面目上原決定を維持し原決定と同一結果となるものと思料したが為であると述べた。(立証省略)
被告訴訟代理人は(一)本案前の抗弁として主文第一項同旨の判決を求め其の答弁として、原告の取消を求めている被告の為した本件農地売渡計画に対する異議却下の決定に対し原告よりその主張の如く訴願を提起し、目下訴願繋属中にして、未だ訴願の裁決を経ていないから本訴は不適法であると述べ(二)本案につき原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め答弁として、訴状記載の請求原因の中第一項中本件農地は原告の祖父青野精太郎が不在地主である吉本イサ、越智時美より賃借耕作していたもので、精太郎は昭和二十四年三月死亡したこと、当時原告の父は四坂島に居住して居つたこと又、同父は昭和十七年四月十八日頃応召した為原告はユキと四坂島を引揚げて帰村して居つたこと、又喜十郎がその主張の年月日に戦死したこと、又その公報のあつたこと及昭和二十一年一月温泉郡川上村鈴木スマ方で原告が本件田地を耕作することにした事は認めるが、其の余の事実は争う。第二項以下の内本件土地を政府が買収したこと、原告が売渡の申入をしたこと、昭和二十年十一月二十三日現在で青野頼恵に売渡計画を樹立し原告は県農地委員会へ訴願したこと、又右委員会は被告の計画に承認を与へてなかつたこと、被告は更に昭和二十七年三月十日青野頼恵に売渡計画を樹立したこと、原告はその主張の通り異議申立を為し被告は之を却下したことは之を認めるがその余の事実は争う。仍て原告の請求には応じ難いと述べた。(立証省略)
三、理 由
本案前の抗弁につき検討するに、本件農地につき被告は昭和二十七年九月一日之を訴外青野頼恵に売渡す旨の計画を樹立し同月十日原告は被告に対し異議申立を為し被告は同月十八日附異議却下決定を同月二十日原告に送達したので原告は更に同月二十七日愛媛県農業委員会に訴願を提起し、該訴願は目下同委員会に繋属中であることは当事者間に争がない。従つて本件出訴については出訴当時は勿論本件口頭弁論終結当時に於いても未だ右農地委員会に対する訴願の裁決を終了していないものであり且訴願提起の日から未だ三ケ月の期間を経過してないものである。
而して原告は本件については請求原因事実摘示の通り先に本件農地を訴外頼恵に売渡す旨の買収計画に対し異議並訴願を経由しているものであるに拘らず被告は答弁事実摘示の通り愛媛県農業委員会の承認を得て再度同訴外人に売渡す旨の計画を樹立したものであつて訴願庁たる同委員会の裁決の結果も被告の決定と同一趣旨になるものと思料する旨主張するけれども之は原告の単なる推測に過ぎず、従つて右理由によつては未だ訴願を経ずして直ちに出訴するにつき正当の事由ありとなすことは出来ないから原告の本件訴は行政事件訴訟特例法第二条に則り不適法として之を却下すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のように判決する。
(裁判官 伊東甲子一 橘盛行 西川太郎)